壺井 栄
一つ身の着物
赤ん坊の名を右文といった。生後一年で孤児になり、私の家へくることになった。赤ん坊のひいおばあさんにあたる人からこの話をもちこまれる前に、私たち夫婦はもうその覚悟でいたのだが、いよいよとなると、さまざまな難問題が湧いてきた。しかし、だからといって肩をはずすわけにも行くまいと考えられたので、とにかく引き取ろうということになった。その中どこからか救いの手がのびてくるだろうという空だのみもあったし、また一方では、赤ん坊という新鮮な存在が、もうとっくに初老をすぎた私たちの、沈滞した家庭生活を若返らせもしようかという、とてつもない希望も抱かせられた。
「うちに赤ん坊ができるなんて、なかなかいいじゃないか。このたび老妻に男の子が生れました――とみんなに通知して、一つお祝いをして貰うんだね。」
夫がそういうと、娘の正子までがのり気になって、本気な顔でいった。
「そうよ、そうよ、ほんとにうちではこれまでよその赤ちゃんにばかりお祝いしてるんですもの、今度はそうしましょうよ。みんな驚くわよ。ねえお母さん、わたしが育てるからさ。うちに生れた子だと思ったら、育てるのあたり前ですもの。」