横光 利一
火の点いた煙草
彼は恋愛を軽蔑した。彼は煙草を愛した。それ故彼は、愛の話を始められると、横を向いて彼の愛するモン・レツポを燻らせた。煙りの中から、恋愛の生れたためしは滅多にない。さうして、彼と彼女との恋愛も、たうとう一服の煙草のやうに楽しげに消えて了つた。
「さやうなら。」
「さやうなら。」
後には、彼の煙りだけが一場の事件を煙りとして、気軽にふはふは立ち昇つただけである。――モン・レツポ、ダ・カツポ――
横光 利一
彼は恋愛を軽蔑した。彼は煙草を愛した。それ故彼は、愛の話を始められると、横を向いて彼の愛するモン・レツポを燻らせた。煙りの中から、恋愛の生れたためしは滅多にない。さうして、彼と彼女との恋愛も、たうとう一服の煙草のやうに楽しげに消えて了つた。
「さやうなら。」
「さやうなら。」
後には、彼の煙りだけが一場の事件を煙りとして、気軽にふはふは立ち昇つただけである。――モン・レツポ、ダ・カツポ――