平光 吾一
戦争医学の汚辱にふれて
運命の電話
古傷を抉られる――という言葉がある。恰も「文学界」誌上に発表された遠藤周作氏の『海と毒薬』という小説を読んだ時、私は全く自分等の古い傷痕を抉られたような心境だった。
というのは、この小説が戦争犯罪人というレッテルと、重労働二十五年という刑罰を私に下した、所謂九大生体解剖事件(実際は相川事件という)を刻明に描写していたからである。
人間を生きたまま解剖する――平和な今日では想像も出来ぬような残酷にして戦慄すべき出来事がほんとうにあったのだろうか。日本の上下をあげて敗戦に追いつめられた時代相と異常な戦闘生態における人間心理が交錯して生れた悲しむべき戦争悪の一面を語る「事実」なのである。