中谷 宇吉郎

雨を降らす話

人間の力で雨を降らそうという願望は、昔からどの国にもあった。いろいろな祈祷や、雨乞いの歌の話などは、その一つのあらわれである。

そういう話は別として、科学の力で雨を降らそうという企ても、もうずいぶん前から、いろいろ試みられている。それが最近になって、遂に成功したというニュースが、この頃アメリカから伝えられて来た。リーダーズ・ダイジェストなどにも紹介され、日本でも大分注目をひいている話である。もっともこの話は、いつでも好きな時に雨を降らせるというのではない。大気中に水分が充分あるのに、雨が降らない場合に、人工で降雨を発生させるというのである。

それではつまらないと思われるかもしれないが、それが実はたいしたことなのである。というのは、大気中には、たいていの場合、水分はかなりたくさんあるからである。よく晴れた日でも、空に全然雲がないという日は、日本などでは、一年に数日しかない。空には雲があるのが当り前と、誰でも思っている。雲はもちろん非常に小さい水滴の集りであるから、水分は充分にあるわけである。

ところで雲も雨も水滴であるのに、雨ならば降るが、雲は降らないという理由は、極めて簡単である。雲も降るのであるが、その落下速度があまり小さいので、浮いているように見えるだけである。それならば、充分な時間をかければ、雲もやがて地上に届くはずであるが、実際は途中で蒸発してしまうので、水としては地面に達しない。

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