中谷 宇吉郎

八月三日の夢

この頃反故を整理していたら、報告の下書の束が出て来た。終戦直後に、研究室の机の上にあったそういう種類の紙類を、一括して戸棚の奥に放り込んでおいたものである。

戦争中は、一日一日を追いかけられるような気持で、いろいろな問題を乱雑にやり散らして来た。今少し落着いた気持で、その頃書いた報告の草稿を出してみると、悪夢にうなされていたような当時の切羽つまった気持が、草稿の字の崩れや文章の末々の乱れなどに見られて、今さらのように感慨深いものがあった。

埃を払いながら、うず堆く積み上げられたそれ等の草稿を片付けているうちに、珍しいものが出て来た。それはフルスカップの余白に「八月三日朝の夢」と記した走り書である。なるほど確かにそういう夢を見たことがあった。僅か六カ月前のことであるが、何だか遠い昔の夢のような気がする。輪郭がすっかり薄れて、色あせた絵のような姿として思い出されるのも、あわただしかったこの半年の国の動きのせいであろう。

オランダの旧い大学

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