中谷 宇吉郎

雪三題

一 初雪

今年は初雪が例年よりも二日早かった。

秋の天気工合がよかったせいか、円山の原始林の黄葉がまだ八分どおり残っているのに、朝学校へ出がけに、ぱらぱらと霰まじりに初雪が降った。外套の袖に受けてみると、雲粒のついた無定形の雪である。

昨年の今頃は、終戦後の混乱からまだ抜けきれず、それに食糧の不安も深刻で、初雪を見ても、あまり感慨も湧かなかった。あの頃からみると、ストライキ騒ぎこそあれ、随分落着いた気持になったものである。石炭はどうせ配給は無いものとあきらめているし、活動を見る気は初めからなし、ラジオはストライキで静かになってまことに結構であった。また雪の研究でも始めるには、お誂え向きの世の中になったものである。

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