亀井 勝一郎

八※[#小書き片仮名ガ]岳登山記

山と私

私は北海道の南端の海辺に育ったので、若いときから山国というものが大へんめずらしかった。

北海道も石狩平野から奥へすすむと山国同様だが私はその地方は殆んど知らない。朝夕に津軽海峡を眺めて暮してきたので、周囲の全部が山また山という風景に接すると異様な感じを与えられる。初夏のみどりで全山が蔽われ、眼にうつるもの悉くみどりといった中で、私は目まいしそうな状態になることがある。濃厚な葉緑素が身体にしみいって、酔ったような気持になる。

はじめてそういう経験をしたのは高校時代で山形であった。最上川の上流、馬見※[#小書き片仮名ガ、307-10]崎川のほとりに盃山という丘があるが、そこへ登ると、はるかに朝日岳、湯殿山、羽黒山、月山などがのぞまれた。私は高校時代に一度だけ蔵王山に登ったことがある。新緑に蔽われたこの山の中腹から、はるか遠くに白雲を頂いた鳥海山を眺めたときの印象は、いまもなお残っている。

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