ルヴェル モーリス

幻想

乞食は、その日、辻馬車の扉を開け閉てして貰いためた僅かの小銭を衣嚢の底でしっかと握り、寒さで青色になって、首をちぢめて、身を切るような寒風を避ける場所を探しながら、急ぎ足の人々とともに往来を歩いて行った。

すっかり草臥れてしまって、『どうじゃ一銭』を云うさえ億劫だし、手をのべたくても、手套なしの手は我慢にも衣嚢から出せないほど凍かんでいた。

横っちょに吹きつける粉雪が髭にたまり、頸筋へ溶けこむのにも気づかずに、彼はひたすら或る瞑想にふけった。

「たった一時間でいいから、金持ちになりてえなア。そうすると、おれは何を措いても馬車を一台買うぜ」

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