ルヴェル モーリス
無駄骨
そのジャン・ゴオテという男は、見たところ、ちっとも危険な犯罪者らしくなかった。
年齢はちょっと見当がつかないが、弱そうな小柄の青年で、何だか子供の時分から病身で悩んで来たという風であった。ときどきそそっかしく鼻へあてる近眼鏡の蔭にさまよう眼付なんか、ほんとうに静かで柔和だった。叱られて怖々している子供といった方が適当なくらいで、これが人殺しをした青年とはどうしても思えなかった。
ところが彼は実際、人殺しをやったのである。そして犯行後数時間目に逮げられたのだが、警官から肩を押えられると同時に、何等悪びれた風もなく、自分が犯人であることをまっすぐに自白してしまって、しかしそれ以来、頑固に口を噤んでいたのであった。
「おい」予審判事が或る日彼を詰問した。「お前は被害者と全然無関係で、また、その家から何も盗まぬと云ったな。そんなら何のために彼を殺害したのか」