中谷 宇吉郎
荒野の冬
北海道の奥地深く、荒野の冬の姿といえば、『カインの末裔』の描写を思い出す人が多いであろう。
鉛色の空が低くたれこめた下には、木も家も、吹きつけられた雪にただあだ白い凄気を帯びて静まりかえっている。そして一度吹雪が来ると、天地が白夜の晦冥とでもいうように、ただ一色に鼠色になる。そして人々は白堊の泥河の水底に沈んだように、深い雪の下で僅かに蠢きながら、辛うじての生活を保って行くのである。
二十五年前に、有島氏によって描かれた、こういう荒野の冬は、まだ北海道の奥地では今日も見られるのである。北海道の冬といえば、ストーブをかこんでの団欒とか、銀嶺とスキーの話とかが語られることが多い。そして私なども、札幌の生活だけをしていたならば、開拓移民たちの経験する北海道の冬というものを、最後まで知らず仕舞いにすんでしまったことであろう。
幸い、と言えるかどうかはわからないが、私の研究はこの十年ばかり、雪とか土地の凍結とかいう方面に傾いて来たので、仕事の都合上、よく原野の冬を訪れることがあった。そして『カインの末裔』の人々の生活を実際に見る機会にあって、いろいろと感慨をいだくこともあった。