中谷 宇吉郎

石碑

学制頒布七十年の記念式の新聞記事をよみながら、ふと思いついた話である。

何処かの国民学校で、児童たちをつれて遠足に行った。雨上がりで足をすべらせた児童の一人が河に落ちこんだ。その時先生の一人がすぐ濁流にとび込んでその児童を救い上げたが、自分は濁流の中に流されてしまった。

こういう場合には、その場所に石碑が建つであろう。そういう実例がたしか東京の近くにあったように記憶する。

ところで三十年間国民学校の先生をつとめ上げて、その間に何十人という腕白な児童たちを、何百回と遠足につれて行って、その中の一人をも河に落さなかった先生も沢山ある。そういう先生が退職しても、まず石碑は建たない。

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