ルヴェル モーリス
青蠅
男は、死んだ女のそばに突立って、平然とその屍体を見まもった。
彼は眼を細めにあけて、大理石の石板に横えられた女の白い体と、胸の只中をナイフで無残に刳られた赤い創口とを見た。
屍体はすでに硬直しているにも拘らず、完全な肉附の美くしさは、まるで生きている人のようだ。ただその余りに蒼白くなった手の皮膚や、紫色に変色した爪や、かっと見ひらいた両眼、気味わるく歯を露わしている黯ずんだ唇――それ等のものが永久の眠りを語っているのだ。
石で床を鋪きつめたその不気味な広い室は、息窒まるような沈黙で圧つけられていた。屍体の傍には、今までそれを包んでいたらしい、血痕の附着した敷布があった。臨検の役人たちはそのとき一斉に、被疑者であるその男の方へ眼をつけたが、男は二人の看守に護られながら、しゃんと顔を擡げ、背ろへ両手を廻わして、相変らず傲然と突立っているのであった。