ルヴェル モーリス
犬舎
十一時が鳴ると、アルトヴェル氏は麦酒の最後の一杯をぐっと飲み乾し、ひろげていた新聞をたたんで、うんと一つ伸びをやって、欠伸をして、それからゆったりと起ちあがった。
吊り飾燈の明るい光りは、弾丸や薬苞の散らばっている卓布の上をあかあかと照らしていた。そして暖炉のそばには、肱掛椅子に深々とうずまった婦人の横顔がくっきりと影絵のように見えていた。
屋外では、はげしく吹き荒れている風が窓をゆすぶり、しぶきはその窓硝子を騒々しく叩いて、ときどき犬舎の方から犬どものウウと唸る声が聞えた。犬どもはその日朝から終日騒ぎ立っていたのであった。
その犬舎には、四十頭からの猛犬が飼ってあって、口元の不気味な巨犬や、ヴァンデイ産の毛のもじゃもじゃした粗毛猟犬など、いずれも猟に伴れてゆくと、獰猛な勢いで野猪に喰いつく奴等である。そして夜になると彼奴等の猛しい唸り声を聞いて、遠近のさかりのついた野良犬や、狂犬どもが盛んに吠え立てるのだ。