ルヴェル モーリス
父
最後の一耘の土を墓穴へかぶせてしまって、お終いの挨拶がすむと、父子はゆったりした歩調で家の方へ帰って行ったが、その一歩一歩がひどく大儀そうであった。二人とも無言で歩いていた。長い混雑の後に起るくたびれが急に出てきて、物をいうさえもおっくうだった。
家へ帰ってみると、柩に供えた花の香気が、まだそこいらに残っていた。この数日来、多数の人の出入りやら悲歎やらで込合っていたが、今は家の中が静閑とがらんどうになって、妙に改たまった感じがするのであった。
年老った女中が一足先きに戻って、後片付をすましていた。父子は、まるで長旅からでも帰って来たような気がした。そのくせ、帰りつくなりほっとして『ああ自分の家ほどいいところがない』というような、晴れ晴れした気持にはなれなかった。
しかし家の中の体裁は、前と少しも変ったところがなく、飼猫は例のごとく炉辺にうずくまって、ごろごろ喉を鳴らしており、そして冬の日射しが柔かく窓硝子を染めていた。