ルヴェル モーリス

ピストルの蠱惑

一時間前までおれは囚人だった。しかも大変な囚人だ。外聞だの刑期だのという問題ではなく、すんでのことに、この首が飛ぶところであったのだ。

斬首台を夢に見て魘されたことも幾度だかしれない。そんなときは思わずぞっとして、もしやあの庖丁の細い刃の痕がついていはせぬかと、冷汗の滲んだねばねばする手で、そっと頸筋を撫でてみるのだった。弥次馬の立騒ぐ声までも聞えるような気がして、ぶるぶるっと身ぶるいがした。『死刑にしろ、死刑にしろ』という嗄れた叫び声が耳底でがんがん鳴った。

しかし今はすべてが終った。おれは釈放されて、自分の住室へ帰って来たのだ。そしてもう一度市街の雑鬧や、店屋の明るい電飾が見られる躯になったのである。今夜は久しぶりにゆっくりと晩餐を使おう。暖炉のそばで好きな煙草も喫めるし、それに、暖かい自分の寝床でのうのうと眠れるのだ。

だが、おれはこうして辛と無罪放免になったばかりなのに、今この瞬間ほど、自分を痛切に罪人だと感じたことはない。

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