小泉 八雲
お貞のはなし
昔、越後国新潟の町に長尾長生と云う人があった。
長尾は医者の子であった。それで父の業をつぐべき教育をうけた。小さい時に父の友人の娘お貞と云うのと婚約ができていた。長尾の修行の終り次第婚礼をあげる事に両家とも一致していた。しかしお貞の健康のすぐれない事が分って来た。それから、十五の年にお貞は、不治の肺病にかかった。死ぬことが分った時、彼女は、わかれを告げるために長尾に来てもらった。
長尾が彼女の床のわきに坐ると、彼女は云った。
『長尾さま、私達は子供の時からお互にきまっていました。そして今年の末に結婚する筈でした。しかし今私は死にかかっています、――これも神仏の思召です。もう何年か生きていましたら私は他人の迷惑や心配の種子になるばかりでしょうから。こんな弱いからだではよい妻になれるわけはありません。ですからあなたのために生きていたいと願う事さえ余程我ままな願でしょう。私全くあきらめています。それであなたも悲しまない事を約束して下さい。……それに私達は、又あえると思います。それをあなたに云いたいのです』……