山川 方夫

菊

昔、一人の女がいた。

女は御所につとめ、幼いころからその御所の奥ふかくに住み、中宮の御身のまわりのこまごまとした雑用をはたすのが役目だった。

中宮と主上との御仲はたいへん円満で、毎日は時の刻みのように着実に、平和に過ぎ、そのあいだ女もまた中宮に表裏なくまめまめしく仕えたので、中宮は女に一部屋を下さるまでになった。いつのまにか、女の年齢は二十を大幅に越えてしまっていた。

ある春の一日、御所で花見の宴が催された。女は、禁裏に招かれた大臣たちの警護の武士の一団に、酒肴をすすめていた。若い武士たちは烏帽子に狩衣をつけ、毛抜形のそりをうった太刀を傍に置いて、おそらくはじめて見るのだろう禁裏の、それも裏庭からの眺めに、ものめずらしげな目を散らしていた。革くさい武具の匂いのする若者たちであった。

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