原 民喜
画集
落日
湖のうへに、赤い秋の落日があつた。ほんとに、なごやかな一日であつたし、あんな、たつぷりした入日を見たことはないと、お前も云つた。いつまでも、あの日輪のすがたは残つた、紙の上に、心の上に、そして、お前が死んでからは、はつきりと夢の中に。
故園
土蔵の跡の石に囲まれた菜園、ここは一段と高く、とぼしい緑を風に晒してゐる。わたしはさまざまなことをおもひだす。薄暗い土蔵の小さな窓から仄かに見えてゐた杏の花。母と死別れた秋、蔵の白い壁をくつきりと照らしてゐた月。ふるさとの庭は年老いて愁も深かつたが……。ふしぎな朝の夢のなかでは、ずしんと崩壊した刹那の家のありさまが見えてくるのだ。