壺井 栄

赤いステッキ

一

生まれつき目のよく見えない克子が兄の健とつれだって外へ遊びに出るとき、お母さんはきまったように二人にいって聞かせる。

「気いつけてな、克が石垣から落ちたりせんようにな」

それほど石垣の多い村である。海ぞいの村道に表を向けて立ちならぶ家々の裏口あたりから、もうゆるい勾配につれて石段がはじまり、村の背負っている山のてっぺんの方までも低い石垣の段々畑が続いているような土地柄なので、どこの家でも高いか低いか石垣の上に建っている。家々にはさまれた小道はその片側に狭い排水溝があり、そこも石垣で築いてある。目のわるい子供を持つお母さんにとって、この石垣は苦労の種であった。だから、できるだけ克子を家にとどめておきたいと思っても、子供たちは外の方が好きなのはどこの子とも同じであった。

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