永井 荷風

写況雑記

目黒

前の日も、其のまた前の日も雨であった。ただの雨ではない。あらし模様の雨である。ざっと降っかけては止み、止んではまた降掛けて来る雨である。雨がやむと雲の間から青々とした空が見えて日がさす。夏の盛りに劣らぬ強い日である。啼きやんだ蝉はその度に一斉に鳴きだす。庭も家の内も共に湯気で蒸された浴室のようである。

九月初旬。二百十日を過ごして二百二十日を待ち構える頃の或日の午後である。下渋谷に住んでいる友人が愛児を失ったという報知に接してA君と二人して弔辞を述べに行った。

A君は蠣殻町の勤め先を早仕舞にしてわたしの家に立寄り連立って出かけたのである。あらし模様の天気と、尋ねにくそうな郊外の番地と道路の泥濘とを予想して、二人はその日の朝どちらから誘うともなく電話で同行を約したのである。

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