山川 方夫
恐怖の正体
――だから、私は屍体なんかこわくはないっていったんだ。私には、人間の生命ってやつが不気味なんだ。なにをしでかすかわからないし、それはおそろしく、むごたらしく、奇怪で、醜悪なものだ。私のこわいのは、それだ。……まえまえから、私は、ただそのことだけをいいつづけてきたんだ。
喉ぼとけの突き出た瘠せた若い男は、そういうとコップの水を一息に飲んだ。彼は小柄で、負けた犬みたいなおどおどとした目つきをしていた。が、その目を急に昂然とかがやかせて、速口にしゃべり出した。……
ところが、奴はその私を、私の恐怖を、ぜんぜん理解できなかった。……奴は、バカか狂人か、その両方かに違いないんだ。まったく、悪い奴にとっつかまったもんです。
え? 彼と知り合った動機ですか? それはね、奴の細君を通じてです。彼の妻は、私の小学校の同級生で、金がないので家にあった時代ものの指環や首飾り――ええ、誰のものかは知らないが、親父の代からあったんです――の買い手をさがしている私に、古道具屋なら夫がよく知っているから、と親切にいってくれたんです。