萩原 朔太郎
ふつくりとした人柄
北原氏は、私の知つてゐる範圍で、最もよい感じをもつた人です。あの人の感じを一言で言へば「ふつくりとした人柄」でせう。私のやうないらいらした性格の人間は、一般に人嫌ひが多いので、友人といふものがめつたにできません。たいていの人とは逢つても落着いて話ができません。然るに北原氏には、私のいらいらがたつぷりと這入るだけの餘裕があります。ですから私はあの人と話をしてゐるときが、心が落着いていちばん樂々します。
北原氏の感じでいちばん好い所は、どこかぼんやりとした所があつて、それが非常に魅惑的なあたたかみをもつてゐることです。あの人の手や身體の丸々としたあたたかみは非常に女性的の肉感をあたへます。
話をしてゐても、あの人の神經の細かく利いてゐることには驚きます。併しそれがいつも例のぼんやりの膜につつまれてゐるので、決してこせこせした不快や、妙に氣を※(「廴+囘」、第4水準2-12-11)すといふやうな感じでなく、却つて非常に暖つたかいよい氣もちをあたへるのです。言はばあの人の感じは春の感じです。明るくてしかも感覺的です。
彼はまた一種の瞑想家です。人と話をしてゐる中にも、何かの瞑想に捉はれてゐる時がよくあります。さういふとき彼の瞳はぼんやり對手の顏を正面から見てゐます。併し勿論、實際は何も見てゐないのでせう。