横光 利一

書翰

388 五月二十七日 東京都世田谷區北澤二ノ一四五より鎌倉二階堂三二五の川端康成宛(封書・原稿用紙三枚・ペン書・速達)

先日は僕こそ失禮。上野へ行かうと思つて服を着たのだが、ふと小机を見ると蘭郁二郎君の葬の通知状が開いて、黒枠が見てゐるのだ。そうだ、今日は晝から海軍葬だつたと氣がつき、幹事長の職責の辛さ、また喪服に着かへた。行つて見ると、小説部會人無く、葬が始つてゐて誦經の最中、いきなり僕が弔辭を讀まされたが、そんなものを持つてゐず、やむなく、口で寫眞を見上げたまま喋つた醜態。この人とは生前一度も逢つたこともなく、作品を讀んだこともないので、弔辭を云ふにも云ひやうなく平向した。しかし、最初の文壇の犧牲者であるから、何とか形をつけねばならず、むにやむにやと云つたが、蘭氏の寫眞が不思議とにこにこ笑つて動いてゐるやうだつた。寫眞とは見えぬのだ。實に眞近で見ると良い寫眞だつた。

大河内氏の方へは詫状を出して置いた。

この次はぜひ茶碗を見せて貰ひたし。

青空文庫の作品カード