佐藤 春夫

愉快な教室

(1)

ラフカディオハーン――帰化して日本の名を小泉八雲と名告った文豪の意見によると、人間の草木や小動物に対する愛情の有無というものは先天的な天性によるもので、後天的に教育によっては与えることのできないものであるということであるが、幸なことにわたくしは、この天性を父母から極めてゆたかに受け継いで来ている。母は草木の好きな人であったし、父は小動物を愛する人であった。わたくしはこの天性を世にも有難いものに思い、これあるがためにわたくしは人生を他の人々よりどれだけ楽しく生きているか知れないといつも感じている。

わたくしは二三年前、人から橙色の美しくて啼きのいいローラカナリヤを贈られて愛育していたのに、この間、死なせてしまい、このごろ窓の外に春の陽ざしのうららかなのを見ると、カナリヤが生きていたら、もうそろそろ啼きはじめるころなのにとその声の聞かれないのがさびしく、時にはテレビーの電話の音などをそら耳にカナリヤの歌に聞くことなどさえある。

わたくしばかりでなく、わたくしの一族の者は誰も彼もみなこの好もしい天性をそなえている。先ず息子の松吉は数年前、酔っぱらって夜更けに帰る途中、春の雪解のなかで泥んこになっていた小猫をかわいそうなと拾い取って外套のポケットへ入れて来たことがあった。

青空文庫の作品カード