山本 周五郎

お手洗

芝居を観るのに客席に坐らず、監事室で観るのは本式ではない、と常々思っている。だが、私の場合芝居を観る話はいつも突然にもちあがるので、客席がない。だから監事室で観せていただくほかない。

監事室で観ると具合の良いことには、他の人の迷惑にならずに水割りウィスキーを飲める。その上、客席にいては観ることのできない、高名なる作者や偉い演出家の先生方を眺めることができる。これは私にとって芝居以上に興味がある。

水割りウィスキーとこういった興味にひかれて、芝居を観る時には監事室でみることにしている。

先日も、ある劇場の監事室で、水割りを飲みながら楽しんでいた。ところが何の加減かやたらとねむくなってきた。係の人に頼んで食堂に椅子を並べてもらい、横になることにした。

青空文庫の作品カード