永井 荷風
木犀の花
木犀の花がさくのは中秋十五夜の月を見るころである。
甘いような、なつかしいような、そして又身に沁むような淋しい心持のする匂いである。
わたくしはこの花の香をかぐと、今だに尋常中学校を卒業したころの事を思出す。
わたくしの学んだ中学校はわたくしの卒業する前の年まで神田一ツ橋に在った。道路を隔てて高等商業学校の裏手に面していた。維新前には護持院ヶ原と言われたところで、商業学校の構内には昔を思わせる松の大木がところどころに立っていた。
永井 荷風
木犀の花がさくのは中秋十五夜の月を見るころである。
甘いような、なつかしいような、そして又身に沁むような淋しい心持のする匂いである。
わたくしはこの花の香をかぐと、今だに尋常中学校を卒業したころの事を思出す。
わたくしの学んだ中学校はわたくしの卒業する前の年まで神田一ツ橋に在った。道路を隔てて高等商業学校の裏手に面していた。維新前には護持院ヶ原と言われたところで、商業学校の構内には昔を思わせる松の大木がところどころに立っていた。