原 民喜
屋根の上
かちんと、羽子板にはねられると、羽子は、うんと高く飛び上ってみました。それから、また板に戻ってくると、こんどはもっと思いきって高く飛び上りました。何度も何度も飛び上っているうちに、ふと羽子は屋根の樋のところにひっかかってしまいました。はじめ羽子はくるっと廻って、わけなく下に飛び降りようとしました。しかし、そう思うばかりで、身体がちょっとも動きません。
しばらくすると、下の方では、また賑[#ルビの「にぎ」は底本では「にぎや」]やかに、羽子つきの響がきこえてきました。別の新しい羽子が高く舞い上っているのです。
「モシ モシ」と、樋にひっかかっている羽子は、眼の前に別の羽子が見えてくるたびに呼びかけてみました。しかし、それはすぐ見えなくなって、下の方におりてゆきます。
「モシ モシ」「モシ モシ」何度よびかけてみても、相手にはきこえません。そのうちに下の方では羽子つきの音もやんでいました。