渡辺 千吉郎

利根水源探検紀行

目的

利根の水源を確定し、越後及ひ岩代と上野の国境を定むるを主たる目的となせども、傍ら地質の如何を調査し、将来開拓すべき原野なきや否、良山林ありや否、従来藤原村三十六万町歩即凡そ十三里四方ありと号する者果して真なりや否、動植物及び鉱物の新奇なるものありや否等を究るに在り、又藤原村民の言に曰く、従来此深山に分け入りて人命を失ひしもの既に十余名、到底深入することを得ず古より山中に恐ろしき鬼婆ありて人を殺して之を食ふ、然らざるも人一たひ歩を此深山に入るれは、山霊の祟にやあらん忽ち暴風雨を起して進むを得ざらしむ、唯口碑の伝ふる所に拠れは、百二十年以前に於て利根水源たる文珠菩薩の乳頭より混々として出で来り、其傍に光輝燦爛たるものあるを見しものありと、此等の迷霧を霽さしめんとの志は一行の胸中に勃然たり、此挙や数年前より県庁内に於て行はんとの議ありしも常に其機を得ず、然るに今や之を决行する事とはなりぬ。一行の姓名は左の如し

技師       小西文之進

 県属第二課地理掛 森下鑛吉

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