室生 犀星

音楽時計

階下では晩にさえなると、音楽時計が鳴りはじめた。ばらばらな音いろではあるが、静かにきいていると不思議に全てがつながれ合った一つの唱歌をつづり合してきこえた。昨日も今夜も、毎日それがつづくのである。ネジがなくなるにしたがって、音色が次第に物憂くだるい調子になって、しまいには、まるで消えてしまうように何時の間にか止むのである。あとはしんとした小路の奥の、暗い椎の垣根をめぐらした古い家が、何一つ音もなく降りつづく雨にとざされているのであった。

「お母さん……」

又その弱々しい腹のそこから出たような声音が、二階のわたしの机のそばまで聞えた。わたしはその声を耳に入れると、梯子段を下りて茶の間をあけた。

そこには痩せて小さくなった白瓜のような顔が、ひくい電燈の光をうけて、すぐ私のほうを眺めた。病めば病むほど大きくなった瞳孔が澄んで懶げに私のかおにそそがれた。

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