永井 荷風
あぢさゐ
駒込辺を散策の道すがら、ふと立寄った或寺の門内で思いがけない人に出逢った。まだ鶴喜太夫が達者で寄席へも出ていた時分だから、二十年ぢかくにもなろう。その頃折々家へも出入をした鶴沢宗吉という三味線ひきである。
「めずらしい処で逢うものだ。変りがなくって結構だ。」
「その節はいろいろ御厄介になりました。是非一度御機嫌伺いに上らなくっちゃならないんで御在ますが、申訳が御在ません。」
「噂にきくと、その後商売替をしなすったというが、ほんとうかね。」
永井 荷風
駒込辺を散策の道すがら、ふと立寄った或寺の門内で思いがけない人に出逢った。まだ鶴喜太夫が達者で寄席へも出ていた時分だから、二十年ぢかくにもなろう。その頃折々家へも出入をした鶴沢宗吉という三味線ひきである。
「めずらしい処で逢うものだ。変りがなくって結構だ。」
「その節はいろいろ御厄介になりました。是非一度御機嫌伺いに上らなくっちゃならないんで御在ますが、申訳が御在ません。」
「噂にきくと、その後商売替をしなすったというが、ほんとうかね。」