菊池 寛
神の如く弱し
一
雄吉は、親友の河野が、二年越の恋愛事件以来――それは、失恋事件と云ってもよい程、失恋の方が主になって居た――事々に気が弱くてダラシがなく、未練がじめ/\と何時も続いて居て、男らしい点の少しもないのがはがゆくて堪らなかった。
河野の愛には報いないで、人もあろうに、河野には無二の親友であった高田に、心を移して行った令嬢や、又河野に対する軽い口約束を破ってまで、それを黙許した令嬢の母のS未亡人に対する河野の煮え切らない心持は、雄吉から考えれば腑甲斐なき限りであった。
雄吉が、若し河野であったならば、斬ったり突いたりするような事は、自分の教養が許さないにしても、男らしい恨みを、もっと端的に現わせる筈だのにと思った。それだのに河野は、ぐたぐたとなってしまった許ではなく、令嬢の愛が自分にないと知ると、自分の身を犠牲にして、恋の敵手と云ってもよい高田と、自分の恋人とを、仲介しようとするような、自己犠牲的な行動に出ようとした。河野は、それを人道主義的な、高尚な、行動ででもあるように思って居た。雄吉は、そうした河野のやり方を、蔑んだ。自分が捨てられると、今度は直ぐ、自分の恋人と、憎まねばならぬ筈の恋の敵手とを、仲介しようとする、それでは至純と思われて居た筈の河野の最初の恋までが、イカサマな贋物のように思われるのではないかと雄吉は思った。