作者不詳

現代語訳 平家物語

大原入(女院御出家)

壇の浦で入水するところを、源氏の兵に救い上げられ、京に帰った建礼門院は、昔とはうって変った侘しい生活を続けていた。

昔、中納言法印慶恵という、奈良の僧が住んでいた坊が、空家になっていたところに住まわれていたが、見るかげもない廃屋で、草深い庭に囲まれ、寝所を掩う簾さえもない有様で、これが、かつて絢爛豪華な宮殿に、多くの侍女にかしずかれて過した人の住居とは、到底、信じられなかった。

それにつけても、まだ、西国の波の上で、仮寝の夢を結んでいた生活の方が、ずっと幸せであったような気がして、思い出話といえば、直ぐ、あの当時は苦しかった西国の海上生活のことであり、あの時は誰々が生きておいでであった、あの方もまだご無事でおいでであったなぞと、今は亡き人々のことばかりが、ひとしきり話題にのぼり、それが涙をそそる種となるのである。

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