作者不詳

現代語訳 平家物語

赦文

治承二年の正月がやってきた。宮中の行事はすべて例年の如く行われ、四日には、高倉帝が院の御所にお出でになり、新年のお喜びを申し上げた。こうして表面は、いつもながらの目出度い正月の祝賀風景が繰りひろげられていたが、後白河法皇の心中は、内心穏やかならぬものがあった。成親はじめ側近の誰彼が、殺されたり流されたりしたのは、つい去年の夏のことである。その生々しい光景はまだ、昨日のできごとの様に、まざまざと心に甦えってくる。その事をおもい出すごとに、法皇の胸には、清盛に対する、いや平家に対する憎悪の念が、いやましにひどくなってゆくのである。諸事万端、物憂く、政事もつい投げやり勝ちな日が続いていた。

一方、清盛の方でも、多田蔵人行綱の密告をうけてからというもの、ぬかりなく法皇の周囲に対する監視を怠らなかった。表面だけ鷹揚に構えてはいるが、どうして、どうして、清盛の鋭く光る目は、院の御所に向ってひときわ、きびしい光を見せるのであった。

正月七日、突如、東方の空に彗星が現れ、十八日には、光が一段と増した。

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