ドストエフスキー フィヨードル・ミハイロヴィチ

正直な泥棒

ある朝、わたしが役所へ行こうと思って、すっかり支度をしてしまったところへ、アグラフェーナが部屋へ入って来た。これはわたしの台所女でもあり、洗濯女でもあり、家政婦でもあったが、驚いたことには、わたしと話をはじめたものである。

今までのところ、アグラフェーナはひどく無口な田舎もので、今日の食事は何にしようかといったような、毎日きまりきったことをひと言ふた言いう以外、六年間にほとんどなに一つ口をきいたことがない。少なくとも、わたしはこの女からついぞなんにも聞いた例がないのだ。

「あの、旦那、ちょっとお邪魔にまいりましたが」と彼女は思いがけなくいい出した。「あの小っこい部屋を貸しなさったらどんなもので?」

「小っこい部屋ってどれだね?」

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