坂口 安吾
真説 石川五右衛門『後編』に期待す
檀君が五右衛門を書くために、はじめて大阪へたつという晩、私たちは銀座で酔っ払った。石川淳もいたようだ。新大阪の記者が檀君につきそっていたね。彼が汽車に乗りおくれないように監視するためであった。
酔っ払う檀君と、それを監視しつつある記者君との滑稽な悪関係は、五右衛門が完結するまでひきつづいて行われる運命のようである。
しかし檀君の監視者は新大阪の記者君だけではないのである。彼は年中誰かに監視されている。私のところへ現れるにも、たいがい監視者をひきしたがえて現れる。共に酔い共に泣くという美談があるが、檀君の場合はすこし、ちがうね。監視者が泣くのは原稿ができないためであるし、檀君が泣くのはワッハ、アッハと笑いすぎるためである。
しかし、檀君もよく戦った。五右衛門を書くことは特に勇ましい戦のようであったらしいね。