坂口 安吾
戦後文章論
言葉は生きているものだ。しかし、生きている文章はめったにありません。ふだん話をするときの言葉で文章を書いても、それだけで文章が生きてくるワケには参らないが、話す言葉の方に生きた血が通い易いのは当然でしょう。会話にも話術というものがあるのだから、文章にも話術が必要なのは当り前。話をするように書いただけですむ筈はありません。
「ギョッ」という流行語のモトはフクチャン漫画だろう。横山隆一の発明品である。彼は漫画の中へギョッだの、モジモジだの、ソワソワだのという言葉を絵と同格にとりいれるという珍法を編みだした。
モジモジ、ギョッ、ソワソワを絵だけで表現するのはそうメンドウではないだろうが、言葉を加えた方が絵だけで表現するよりも、はるかに珍な効果をあげる。二科会員隆一先生はそれを見破りあそばされた。凡庸な眼力ではなかろう。
しかし、漫画というものは、絵よりも文学にちかいものですよ。それも少しの差ではなくて、絵が三分、文学が七分、否、一分と九分ぐらいに全然文学の方に近いだろうと私は思っています。