坂口 安吾

私は地下へもぐらない

十一月二十日の本欄に私が地下へもぐったなどと小原特審局の怪情報が現れたが、だいたい地下へもぐるというのはシサイあるサムライのやることだ。

小生は幼にして出家遁世を志し、こと志とややちがって半分ホラアナに住んでるようなものだから、これ以上もぐりようはないさ。久方ぶりに花の銀座へ現れてちょうど四晩にわたってお酒を味っているというのに、地下へもぐったとあっては飲み屋のオヤジにさてはニセモノかと思われてグアイがわるい。

競輪不正事件について大巷談を執筆し、自費出版して大いにモウケて、それで税金をポンと払う、という。本人がアレヨ、アレヨと思うようなことを書いてくれるのも一興で、私が立腹したところでどうせ自粛の見込みはないが、文筆業者は文章にだけは気をつけるもんじゃよ。

大いにモウケて税金を「ポンと払う」というが、だいたい言葉に敏感な文士が「税金をポンと払う」というようなガサツな言葉や表現を用いますかね。それはお金と闘い、三文の計算に明け暮れし、お金モウケにキュウキュウ辛苦を払う人がおのずからに用いる恨みのこもった表現や考え方で、小原壮助さんとちがって、文士はそんな言葉は用いないものです。

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