大田 洋子
いまだ癒えぬ傷あと
放射線火傷で右手をうしなつた木挽きの妻に
あなたはその後どうしていますか。あなたと私は、あの高原の山里で、いわば行きずりの旅の者同志にすぎなかつた筈ですのに、あれから四年經ついまも、私は折りにふれてはあなたのことをたびたび思いだしています。
あの女のひとはどうしているだろうと、名前も知らないあなたのことを思い出すたびに、私の眼の前に浮彫になつてはつきり現れる、一本の女の右腕があるのです。それはあなたの腕です。
あなたを想い浮べるというよりも、私はあなたの魔術のようなふしぎな腕のことを思つているのかも知れません。あなたの腕のためにあなたを想い出す。このようなことは互いの不幸ですけれど、これに似たたくさんの錯覺が私のうちにうずまいてるようにおもわれます。ゆるしてください。