小栗 風葉
片男波
降続きたる卯の花くだしようようはれて、かき曇りたる天もところどころ雲の切間を、朧なる五日の月は西へ西へと急ぐなり。千載茲許に寄せては返す女浪男浪は、例の如く渚を這上る浪頭の彼方に、唯形ばかりなる一軒立の苫屋あり。暮方より同じ漁師仲間の誰彼寄り集いて、端午の祝酒に酔うて唄う者、踊る者、跂る者、根太も踏抜かんばかりなる騒ぎに紛れて、密[#ルビの「そつ」はママ]と汀に抜出でたる若き男女あり。
「何か用なの? え、仙太様。」
と女は美かなる声の優しくまず問懸けたり。されど仙太は応答もなさで、首をたれたるまま、時々思い出したらんように苫屋の方を振返りつつ、的もなく真砂の間をざくざくと踏行きぬ。
「このまあ真黯なのにどこへ行こうての? え、仙太様、仙太様。」