中谷 宇吉郎

「楽天地」南米

この頃日本では、南米熱が大分流行していて、一部には、南米というと、何か樂天地のように、ぼんやり考えている人もあるらしい。先頃作られた映畫にも、南米へ移住しようという精神病の男を主役にしたものがあった。これなども、精神病だから南米へ行きたがっているわけではなく、「樂天地」南米という考え方が、底に流れているようである。

南米への移住農民の場合は、話が少しちがう。日本ではどうしても土地が得られないので、南米へ行って、新しい土地を開拓しようという人たちは、相當覺悟していることであろうから、それはそれでよい。それではなく、相當財産をもっている人で、南米へでも移住して、愉快に暮せたらと、空想している人たちのことを言っているのである。

もしそういう人たちが、その夢を實行したら、きっと當てがはずれることであろう。というわけは、南米の人たちは、逆に日本を非常に羨しがっているからである。

南米での二大國といえば、アルゼンチンとブラジルとが、まず擧げられるであろう。そのうちアルゼンチンの話は、前に書いたから、略するが、インフレは主として心理的の面から、徐々ながら相當惡質に進んでいるようである。

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