中谷 宇吉郎

或る一世の話

アメリカでは社會保障制度が、なかなか巧く行っている。ほとんどどんな職業についていても、六十五歳以上になって引退すると、死ぬまで毎月七十ドルないし百ドルくらいの年金が貰える。その時十八歳未滿の扶養者があると、一人につき三分の一だったか附加される。また細君が六十五歳を越すと、三分の二くらい増額になる。要するに國民の全部に恩給がつく制度になっている。

もっとも政府が無料でこういう保障をするのではなく、勤勞者は社會保障の積立金を拂う必要がある。しかし半額は傭主の負擔であり、一生の間に一年半以上何處かで働いて、その間その積立金を拂ったという實績があればよいので、條件は非常にゆるやかである。まあ普通に働いていれば、誰でもその恩典が受けられるといってよい。店をもっている人でも、實際に雇人並みに働いていれば、勤勞階級と認められる。今年からは農家の人もこの仲間に加えられたそうであるから、ほとんど全國民に社會保障がなされているといっていいであろう。

ところでアメリカ政府にとっての一つの惱みは、外國からの移民が、六十五歳になると、この年金を貰って、本國へ歸ることである。それから本人が死ぬまで、またその後も細君にたしか四分の三だったかの年金を、毎年ずっと拂わなければならない。そのために流出するドルが非常に多額に上るので、大分閉口しているようである。

一番多いのは伊太利人であって、日本人にも少しはあるらしいが、外の諸國に較べたら、まだ問題にならない。もっとも日本へ歸って、毎月三萬圓くらいずつ死ぬまで只で貰って、遊んでおられるのであるから、希望者がどんどん出て來ているそうである。

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