中谷 宇吉郎

英国の特攻隊

米國の有名な科學記者ローレンスの『ゼロの曉』は、たいへん興味の深い本である。この本は、今次大戰中における、米國の原爆製造の過程、英獨の原子力をめぐる科學戰の祕話などを詳細に記述したものである。

ローレンスは、米國政府から、原爆製造の祕密工場に出入を許された唯一の記者で、いわばこの計畫の記録掛のような役目を果した人である。戰爭中、ロス・アラモスやオークリッジの原爆工場、加州大學の放射線研究所など、何人も近づくことを許されなかった場所を、自由に訪ね、その都度詳しい報告をつくった。それ等には、一々「特祕」の印が押されて、特殊の金庫の奧に深く收められた。そして戰後一年を經て初めてその發表が許可されたのである。

この本の約三分の一は、原子力の物理學的説明であるが、その解説は非常に正確であり、かつ懇切をきわめている。恐らくその知識は、原子核專攻の物理學者の平均水準には、達しているであろう。一讀して、非常に驚いたので、その話を何時か小林秀雄氏に會った時に、したことがある。

小林氏もすでにこの本を讀んでいて「あれは非常に面白い本だね。イギリスにも特攻隊があったことが分って、驚いたよ」と言っていた。私はそこはついうっかり讀み過していたので、後になって讀み返してみたら、果してその通りであった。

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