中谷 宇吉郎
自動車を止めるボタン
アメリカでは自動車の交通規則がやかましく、赤ランプの突破など、ひどい罰金である。
何分ああ自動車が多くては、よほど規則を嚴重にしておかなくては、到底交通の安全を期し難い。車道と人道との區別もはっきりしていて、車道には普通自動車だけしか走っていない。自轉車は、原則として人道を通ることになっている。まず乳母車並みである。
人命を非常に大切にしているので、誤って人を轢くと、たいへんな損害賠償をとられる。下手をすると、轢いた方は一生涯只働きをしなければならない。裁判で一度判決を受けると、その額を支拂うまで、月給の中からずっと差し引いて、とられてしまうからである。
もっとも歩行者に對しても、交通規則はきわめてきびしい。横斷歩道でないところを横切って、自動車に轢かれても、たいていは轢かれ損である。その代り、横斷歩道のところで轢くと、今度は轢いた方が、一生只働きのおそれがある。とにかくひどく割り切った國で、日本風な人情味は、まず無い國と思わなければならない。