中谷 宇吉郎
長寿
國際雪氷委員會の前總裁チャーチ博士は、現在八十九歳くらいである。チャーチ博士とは、十數年來文通をしていたが、初めて會ったのは、今から六年前、一九四九年の夏であった。
ネヴァダ州のリノの町に、ネヴァダ大學があって、チャーチ博士は、その大學の教授を永らくつとめていた。私が初めてチャーチ博士に會った年、即ち一九四九年に、老齡の故をもって、大學から引退することになった。
これは老博士の意志ではなく、大學側から要求された形であったらしい。先生はその點大いに不滿のようであった。初めて會った日に、もうその話が出て、「大學は、私を年寄扱いにして引退を勸めるのだ。まだ數年は働けるつもりなのに」と、言っておられた。年をきくと「八十三歳」だという。
一寸可笑しいのは、チャーチ博士は、たしかその數年前に、インドの水資源調査を頼まれ、ヒマラヤ地方を踏査されたはずである。それで「貴方は近年ヒマラヤへ行かれたはずだが、あれはいつのことでしたか」と聞いてみた。そしたら「あれは一昨年のことで、八十一歳の時だった」とすましていた。