中谷 宇吉郎
松の家
岩波さんの惜櫟莊に輪をかけた話が、アメリカにある。それは松の大木を助けるために、生きた松の木をそのまま大黒柱にして、家を造った話である。
ネヴァダ大學に永年勤めていて、四五年前に引退した、チャーチ博士という老教授がいる。以前に國際雪氷委員會の總裁をしていた人で、二十年越しの知り合いである。
昨年の夏、歸國の途次、この老先生を、リノの町に訪ねた。そしたら八十七歳のこの老先生が非常に喜んで、近くのタホ湖にある別莊へ行こうという。それで妻や娘たちも一しょに、この老先生を自動車に乘せ、ネヴァダ山脈の中腹にあるタホ湖まで出かけて行った。
タホ湖というのは、カリフォルニア州とネヴァダ州との境に位し、たしか五千フィートくらいの高さのところにある、美しい湖である。太平洋側では、屈指の避暑地で、輕井澤と十和田湖とを兼ねたようなところである。