中谷 宇吉郎

らっきょうと葉唐辛子

この前二年間アメリカへ來たときに、初めは食い物に不自由するかと思ったが、案外に日本の食い物が何でもあるので、驚きもし、かつ安心もした。

もっともアメリカ中どこでもというわけにはいかないので、サンフランシスコとか、ロスアンゼルスとか、シカゴとかいう街の話である。シカゴは戰前には日本人が五百人くらいしかいなかったが、戰後急に増えて二萬人近くになった。もちろん二世を入れての話である。戰爭中は加州にいた日本人を、大陸の内部に收容した。その人たちが、戰後にアメリカ各地に散在することになったので、シカゴの日本人が急に増えたのである。

二世はほとんど英語しか喋れないが、食い物は、子供のころに習慣がつくものと見えて、たいてい日本食を好む。それでまず二萬人の需要があることになる。皆消費度が高いので、日本の人口五萬くらいの町の需要と思っていいであろう。

人口五萬の町といえば、魚屋の四軒や五軒あっても、ちっともおかしくはない。事實シカゴにも日本人向きの魚屋兼食料品店が五軒ばかりあって、どこでもマグロの刺身やカニなどを賣っている。「アメリカ大陸の眞ん中でまで、マグロの刺身や握り壽司を食べたがる。だから日本人は……」などと叱られるかもしれないが、これはマグロの刺身で代表される日本の思い出を食べているのである。

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