中谷 宇吉郎

珈琲の値上り

一年ぶりに研究所へ顏を出してみたら、大分人數が殖えて、賑やかになっていた。しかし、雰圍氣は昔どおりで、まず芽出たいことであった。唯一つちがったことは、珈琲が値上りになっていたことである。

もちろんアメリカ國内の珈琲が高くなったわけではなく、研究所内で飮む珈琲が値上りしたのである。といっても、何のことか分からないかもしれないが、それにはまずこの研究所の珈琲制度の説明が必要である。

アメリカ人の一番感心な點は、よく働くことで、工場はもちろんのこと、官廳などでも、全員朝の八時には皆揃っている。そして夕方の五時まできちんと働く。休みは晝の一時間と、午前十時および午後三時の各十分宛のコーヒー・タイムだけである。即ち拘束九時間、實働八時間である。

ところでこのコーヒー・タイムにおける珈琲であるが、この研究所では以前から「自由販賣」制度にしていた。外へ頼んで、朝大きい珈琲沸しに、一杯珈琲を入れたものを、毎日配達して貰う。これは電熱式になっているので、いつでも熱い珈琲が出る。

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