芥川 竜之介
じゅりあの・吉助
一
じゅりあの・吉助は、肥前国彼杵郡浦上村の産であった。早く父母に別れたので、幼少の時から、土地の乙名三郎治と云うものの下男になった。が、性来愚鈍な彼は、始終朋輩の弄り物にされて、牛馬同様な賤役に服さなければならなかった。
その吉助が十八九の時、三郎治の一人娘の兼と云う女に懸想をした。兼は勿論この下男の恋慕の心などは顧みなかった。のみならず人の悪い朋輩は、早くもそれに気がつくと、いよいよ彼を嘲弄した。吉助は愚物ながら、悶々の情に堪えなかったものと見えて、ある夜私に住み慣れた三郎治の家を出奔した。
それから三年の間、吉助の消息は杳として誰も知るものがなかった。