森 鴎外

妄想

目前には広々と海が横はつてゐる。

その海から打ち上げられた砂が、小山のやうに盛り上がつて、自然の堤防を形づくつてゐる。アイルランドとスコットランドとから起つて、ヨオロッパ一般に行はれるやうになつた d※(サーカムフレックスアクセント付きU小文字)n といふ語は、かういふ処を斥して言ふのである。

その砂山の上に、ひよろひよろした赤松が簇がつて生えてゐる。余り年を経た松ではない。

海を眺めてゐる白髪の主人は、此松の幾本かを切つて、松林の中へ嵌め込んだやうに立てた小家の一間に据わつてゐる。

青空文庫の作品カード