佐左木 俊郎
街底の熔鉱炉
一
房枝の興奮は彼女の顔を蒼白にしていた。こんなことは彼女にとって本当に初めてであった。その出張先が自分の家と同じ露地の中だなんて。彼女は近所の侮蔑的な眼が恐ろしかった。しかもそれが同じ軒並みのすぐ先なのだから。彼女はすぐそのまま自分の家に帰って行く気はしなかった。彼女は日頃から親しくしている小母さんの家へ裏口から這入った。小母さんの家は、雇われて行った家の一軒置いて隣になっていた。小母さんは内職の造花を咲かせていた。
「小母さん! お隣のお隣は、何を職業にしているの?」
「お隣のお隣? 楽そうだろう? 泥棒をしているんだって。」